約束は風のなかに───
先月発売された、「anemoi」。サマーポケッツRBに続く、久方ぶりのKeyフルプライスノベルということで、かなり注目を集めている。
「これまでの”Key”からの脱却」を目指したということもあり、前作のサマーポケッツRBはもちろん、これまでのKey作品と似ているようでかなり魅せ方が変化したところも多々あり、わりかし評価が分かれている印象を受ける。
私としては、Keyらしさを保ちながらも冒険的な作品、だと考えている。(Keyらしさって何だよ、という話ではあるが)
過去作品で言えば、Rewriteのような冒険性に近いだろうか。(内容そのものはぜんぜん違うが)
サマポケと比較すると、個別はサマポケにやはり軍配が上がるが、グランドの終り方については、アネモイの方がすきだ。
全体的に、わかりやすい動的な泣きゲーではなく、心に深く、のしかかってくるような静的な泣きゲーだと感じた。(efみたいな?)
結論として、ノベルゲームをゆったりと楽しめる人向け。
※例によって、ネタバレを極力避けていますが、挿入画像等により、ネタバレと感じる可能性も否定できませんので、自己責任でお願いします。また、挿入画像は引用という形をとり、権利はすべて該当の権利者様に帰属致します。
概要
どれを買えば?

DL版と初回限定版があり、DL版が7700円、初回限定版が10780円となっている。
価格面でいえばやはりDL版に軍配が上がるが、パケ版(初回限定版)には地味に嬉しい特典(CDアルバムとか冊子とか)がついており、所有欲を満たしてくれると思うので余裕があれば初回限定版の購入をおすすめしたい。

anemoiもサマポケのように通常版が発売されたらヲタク冥利に尽きる。
作品構成

舞台は北の大地、真澄町。
10年前に埋めたタイムカプセルを開けるために滞在した真澄町での、主人公速川麦のスローライフが描かれる。
メインヒロイン5人+サブヒロイン5人+グランド√という壮大な北の大地での物語がプレイ時間50時間という中で紡がれていく。
タイムカプセルの中身とは一体なんであろうか。旅の終着点は何処であろうか。
魅力と感想
新しい「Key」

結論から言うと、サマポケと比べようにもベクトルが全く異なるため、比較できない。
サマポケが、高校生の”夏休み”という、刹那的で、時間的なもので魅せてくるのに対して、アネモイは世紀末やファンタジー、伝承としての要素を取り入れた”人生という旅”であり、空間的な部分が非常に多い。
アネモイには、サマポケのような、「夏の眩しさ」や「期限付きの夏休み」みたいなものはない。
むしろそこには人生らしく、日常が淡々と続くのみである。
「期限付き」からくる特別なイベントや終わりを感じさせる切なさというものもない。
だから、サマポケみたいな「夏休みを追体験」するような楽しさや、わかりやすい泣きポイントはないと思う。
むしろ、最期の最期で、「人生」というものの重さをひしひしと感じさせる、静的なものだと思う。
だからこそ、サマポケのような動的な作品がすきな人にはハマらないかもしれない。
しかし、グランド終了後の余韻はアネモイが圧倒的である。

「Keyらしさ」とよく言われるけど、それは決して具体的ななにかではなく、「人と人とのつながり」、という抽象的なものに過ぎないんだと思う。
さすがの楽曲、そして声優さんと一文の短さ
Keyらしさは、よく「泣けるシナリオ」というところが強調されがちだが、抽象的でなく、具体的に語るとするならば、それは楽曲と声優さんだと最近は思う。
楽曲に関して、名曲が多いのは勿論だが、流すタイミングが神がかっている。
本質シーンで本質曲が本質タイミングで挿入されるので、「泣くしかありませんやんこんなの…」となる。とくにバラード調のやつとか。
OP、EDに加え、挿入歌も超本質なのだが、ぜひゲーム中に聴いてみてほしい。
そして、軽視されがち?かもしれないが、声優さんの演技。
私は声優にあまり詳しくなく、ノベルゲームをプレイしていてもボイスをフルで聞かずに次の文章に進んでしまうことが多かったのだが、本作(サマポケもそうだが)に関してはその限りではなかった。

あかん、ほんまにずっと聴いてられる……
ボイスをスキップするどころか、同じボイスを複数回再生していることが多々あった。
はじめは、声優さんの演技力によるものだろうと思っていたが、どうやらそれだけではないらしいことにも最近ようやく気づいた。
一文が短いのである。
ノベルゲームは、一文がかなり長く、それによって登場人物の会話も長くなることが多いのだが、anemoiについては、一文が割と短いため、単に読みやすいだけでなく、ボイスを最後まで苦なく聴ける仕組みになっている。
総じて、楽曲を素晴らしいタイミングで挿入し、短い一文を素晴らしい声優さんの演技によって紡いでいくことで、私のようなドパガキでもプレイするのを辞めないように節々に配慮が行き届いていると感じた。
結局こういう細かな配慮がKeyらしさだったり?

ちなみに内容自体はまったくドパガキ向けじゃない。
”クセが少ない”という凄さ

これはアネモイに限らず、最近のKey作品に共通することだが、とにかくクセが少ない。
多くの人が、ライターのクセを愛するし、ライターもまた、自我を出すためにクセを出してしまう。
それゆえ、「クセの少なさ」というのは軽視されがちだが、実は並大抵のことではないと本作をプレイして痛感した。
クセが少ないということは、単純に万人受けしやすい。
すると、「万人受けしやすいがブチ刺さりはしにくい」という評価につながりがちだが、このanemoiについてはその限りではないと強く感じた。
むしろ、クセが少ないからこそぶち刺ささる、そういう作品なんだと思う。
自我を抑えて、それでも刺さる作品を作り出せることは、世間一般で思われているより何倍も難しいことだと思われるし、anemoi、ひいては近年のKey作品の強みは実はそういうところにあるのではないかと思う。

誤解を恐れずに言えば、クセを出すほうが、刺さる作品は作りやすい。
攻略は見るな!

まず、このゲームはシステムが非常にわかりやすい。
選択肢は多いけれど、ヒロインの分岐等、重要な選択肢は必ずわかるようになっている。(画像参照)
そのため、そもそも(実績全解除目的でなければ)攻略を見る必要はない。
そして、なんといってもこのゲームのとあるルートは攻略を見ず、所見で選択肢を踏むことで何倍も面白く体験できる。
ぜひ、攻略を見ずにプレイしてほしい。

私自身、これまで攻略をみてプレイしていたが、このゲームを通じて、初心に戻る重要性に気づいた。やっぱり任意の作品において、攻略は見ずにやったほうが面白い。
個別はややムラあり

本作は、グランドが長いだけでなく個別√も長く、そして多い。
メインヒロイン5名に加えて、サブヒロインの√もしっかりと用意されており、稀に見るボリュームとなっている。
サマポケRBもヒロインが多いが、サマポケに比べるとムラがあるというか、蛇足感は否めなかった。
具体的に言えば、メインの六花√、淡雪√、サブの健さん√はかなり刺さったものの、他のルートに関しては残念ながらあまり刺さらなかった。

ツイッター上を見ていても淡雪√に関しては肯定的な意見が多かったものの、その他のルートは人によってかなり感想がばらける印象であった。(淡雪に関しては、静的な本作の中では珍しく、「動」が終盤にかけて点在したことが大きいのかもしれない)
サマポケRBも、各々の√にクセがあったとはいえ、「ひと夏の思い出」という強烈かつ統一的なテーマ性により、多少の好き嫌いはあるとしても、まとまりがあり、全√楽しめるものだったことを踏まえると、各√の個性に対して、anemoiは統一的な強いテーマ性を共有できていなかったのではないだろうか。
グランドにいくうえでは全√回収する必要があり、かつ√ごとにムラがあるため、サマポケに比べて万人受けしにくいというのが確かな事実として横たわる。

裏を返せば激刺さりする√が見つかるかもしれないということ。私は六花√がぶち刺さりし、ありえない大号泣をした。
だから淡雪√と立花√の話がしたいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
タイトルどおり。
淡雪√と立花√ほんまに好きやねん。
正直、他のヒロインルートはあまり刺さらなかったのだが、淡雪√と立花√の2つだけでも、anemoiをプレイしてよかったと強く感じた。
”ノベルゲームらしさ”で魅せる淡雪√

淡雪√は、まず「美」について考えさせられた。
美ってなんだろう。美しく生きるってなんだろう。たとえ美しくなくても、その人生は美しいんじゃないかという一見矛盾した思い。
そして、延長にある「愛」について。
愛ってなんだろう。恋ってなんだろう。そんな、恋愛ADVをやるうえで前提となる感情にしっかりと向き合っていたのが淡雪√だった。
美と愛を追求し、そして幸せを自分たちの手で手に入れるのだという信念が、深く突き刺さる物語であった。
そして何より、「選択肢で魅せる」というノベルゲームでしかできない面白さを探求したシナリオの構成。
淡雪√は、シナリオが単純に面白いというだけでなく、その魅せ方も面白かった。
アニメでもなく、小説でもなく、”ノベルゲーム”をプレイしててよかった、と思った淡雪√だった。
グランド√が麦の「人生という旅」なのだとしたら、淡雪√は”淡雪の”「人生という旅」なのだと思う。

家族っていいな、と思った。「……家族になりたい」(淡雪√の超本質CGがあるんやけどエグいネタバレだから貼れないのが残念)
あと、友人であるつづらがいいキャラしてる。
本質妹チャンの立花√

えー、一番好きなキャラであり一番好きな√です。もうドカ泣きしました。
5人のメインヒロインの√の中で、唯一主人公の過去、そしてタイムカプセルと向き合う√。
anemoiが発売され、立花が実妹というのが発覚したときは、「立花と恋愛できないのかよ……失望しました」(実際、立花√は唯一主人公とヒロインの恋愛が描かれない√。実妹だから当たり前ではあるが)の気持ちだったが、プレイし終えて、
実妹万歳。兄妹愛しか好きじゃない。
の気持ちに。
人生は一筋縄ではいかなくて、楽しいことよりも、辛いことのほうが多いのかも知れない。
それでもなお、立花との思い出があれば生きていける。生きたいのだと、思わせてくれる。
ただ1つ、兄さんを繋ぎ止めてくれるものが、りっかと、立花との思い出なんだ。
卒業、おめでとう。

「兄さんご立派です!」この一言に、彼と彼女の長い旅のドラマが集約されている。
人生という旅

何度も、「人生という旅」としてこの作品を形容した。
「人生」であるのだから、日常パートも長く、当然グランドもまた永い。
日常パートは、わかりやすい動きがないため、多くの人が退屈に感じてしまうことだろう。
「◯日でクリアしよう!」と意気込んでしまうと、焦りから、進展のない日常パートに半ば苛立ちのようなものを覚えてしまうこともあるかもしれない。
でも、そういうときは落ち着いて、一旦プレイを休憩してほしい。
何度休憩してもいい、休んだっていい、寄り道したっていい。だって人生だから。
それでも、一度始めたからには、自分のペースでいいから、さいごにはこの人生という旅の終着を見届けてほしい。
その長さこそ、彼らの人生という旅を描くのに必要なものだったのだと、思えるはずだから。

最期まで落ち着いて、ゆっくりゆっくり、焦らず丁寧にプレイしてほしい。
冗長とも思える日常パートの長さこそが、人生という旅を彩るものだと気付けるはずだから…
あの結末でほんとうによかった

はじめのほうにも言及したが、この物語のグランドは静的なもので、安易なご都合主義や”キセキ”による大どんでん返しは起こらない。
さながら人生のように、移ろいゆくのみである。
ゆえに、期待を裏切られるような驚くべき結末には至らない。
でもそれでいいんだと思う。
着地が見えているからこその感動がそこにはあって、それは「泣ける/泣けない」の次元ではない。
「ほんとうの感動は涙が出ない」というのは些か言い過ぎかもしれないが、まさにそういう類の感動なのである。
まったくもって、彼の旅は、彼の人生であった。

結末見えてんのにありえない感動が押し寄せる。言葉にできずもどかしい。
私も私の人生を生ききったら、あの結末に行きつけるのだろうか。
さいごに

本当に、本当に、長い長いゲームだった。旅だった。そして、人生だった。
彼らの人生はあまりに長くて、私がこの短い人生の中で見出してきた言葉だけでは、とても物語れそうにはない。
この作品は、決して初心者向けではないし、万人受けもしないのかも知れない。
実際、退屈に思えてしまうシーンは山ほどあったし、わかりやすく泣ける作品でもなかった。
それでも、淡雪√と立花√、そしてグランド終了後の得も言われぬ喪失感と余韻に浸るためだけに、私は再びこのゲームをプレイするのだろうと思うし、この感動を、ぜひ多くの人に味わってほしいとも思う。(実際、プレイ終了後、ホーム画面を虚無顔でずっと眺めている時間があった)
言葉はいらない。沈黙だけが、この物語を何よりも雄弁に語る。
「約束は風のなかに───」
このテーマが強調するように、この物語は風であり、約束であり、そして人生という旅だった。
麦がそうであったように、私自身もまた、私自身の旅の終わりに、あの麦畑を、人生を思い出すのかもしれない。
大地に揺れる黄金色の麦はあの風を今でも待っているのだろうか。


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