SF作品を見ていると、量子もつれ(主にEPRペア)を利用した、超光速通信やタイムリープなどの設定がよく登場する。しかし、実際には超光速通信は不可能である。
EPRペアとは、量子もつれ状態の一種で、2つの量子ビットが互いに強く関連している状態を指す。EPRは、アインシュタイン、ポドルスキー、ローゼンの頭文字を取ったもので、彼らが提唱した量子力学の非局所性に関する議論に由来する。
例えば、2つの量子ビットのうち、片方が\( \ket{0} \)のとき、もう片方は\( \ket{1} \)の状態にあるといった具合に、片方の量子ビットの状態を測定することで、もう片方の量子ビットの状態も瞬時に決定されるという非局所的な現象が生じる。
ここで、1つの疑問が生じる。すなわち、片方を測定することで、もう片方の状態が瞬時に決定されるということは、情報が光速を超えて伝わることになり、相対性理論に矛盾するのではないかというものである。
しかし、実際には、超光速の通信が実現されることはない。これは、量子もつれ状態の測定結果が完全にランダムであることに起因する。
情報とは、送信者の意図した内容が受信者に伝わることを意味する。たとえば、送信者が相手に「0」(\(\ket{0}\))という情報を送りたい場合、送信者が\(\ket{1}\)で、受信者が\(\ket{0}\)の状態にあるようにすればよいが、送信者が意図してその状態を作り出すことはできない。
つまり、量子もつれは「相関」を生み出すだけで、「情報伝達」はしないということだ。例えば、アリスが自分の量子ビットを測定して「0」を得たとしても、ボブは自分の量子ビットを測定して「1」を得ただけでは、アリスが「いつ」測定したか、あるいはアリスが「意図的に」何かを送信しようとしたかを知ることはできない。ボブにとっては、自分の測定結果は単なるランダムな結果に過ぎず、アリスの測定があったこと自体も分からないからだ。
この相関を利用して実際に情報を伝達するには、アリスが自分の測定結果を電話やメールなどの古典的な通信手段でボブに伝える必要がある。この古典通信は光速以下で行われるため、全体として情報伝達は光速を超えることができない。量子もつれが提供するのは、あくまで測定結果間の相関関係だけであり、それ自体が情報伝達のメカニズムになるわけではない。


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