【芸術的厨二ゲー】サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-

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伝えたいこと、たったひとつ 瞬間を閉じ込めた永遠。

オープニング曲の「櫻ノ詩」は多分エロゲ史に遺る名曲だと思う。

厨二病になったことはないだろうか。

例えば異世界モノ、例えば戦闘モノ。

剣を自在に操り、手から魔法を放つその様を、自分の中に魅たことは、あるいは夢想したことはないだろうか。

この作品は、あの頃の血気盛んな、生き生きとした厨二時代を彷彿させるような、そんな魂を揺さぶる作品である。

ただし、握るのは剣でもなければ魔法の杖でもない。あるのは、本と筆、ただそれだけである。

そして、放たれるのは華美な魔法なぞではまったくなく、素朴な言葉と旋律、ただそれのみである。

※例によって、ネタバレを極力避けていますが、挿入画像等により、ネタバレと感じる可能性も否定できませんので、自己責任でお願いします。また、挿入画像は引用という形をとり、権利はすべて該当の権利者様に帰属致します。

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概要

どれを買えば?

サクラノ詩 / 枕

パッケージ版とDL版がある他、今年の年末に10thアニバーサリーと題して、グラフィックを刷新+コンテンツ追加がなされた新しいバージョンが発売されるということなので、お急ぎでない方はそれまで待ってもいいかもしれない。

なお、10thアニバーサリーの発売にあたり、新しいオープニングムービーが公開されているが、個人的にプレイ後に見たほうが楽しめると思うので、未プレイでの視聴は控えることをおすすめする。

和解
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個人的には既存verの塗りが割と好きなので、余裕があれば両方買ってもいいかも?

サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- 10th Anniversary edition
サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- 10th Anniversary edition

作品構成

サクラノ詩 / 枕

世界的芸術家の父、草薙健一郎の死から物語は始まる。

弓張学園美術部の復活という名目で部活動に勤しむうち、幸福というものに行き着く。

青春期特有の苦悩と輝きを軸に、芸術論と絡めた反哲学的なシナリオが特徴。

各√で主人公とヒロインの秘密を暴きつつ、ある一つの結論へと至る物語である。

あるのは天才としての生き様か、それとも凡人としての日常か―――

和解
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全体的に文学や美術作品への言及が多いので、芸術的厨二病になってしまう、そんなシナリオ。

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魅力と感想

青春の苦悩と輝き

サクラノ詩 / 枕

シナリオライターのすかぢ氏の作品は、青春期の少年少女のスポットライトを当てたものが多い。

けれど、サクラノ詩ほど、青春然としているというか、青春期特有の苦悩や輝きに焦点を当てた作品というのは存外なかったように思う。

サクラノ詩は、主人公はもとより、ヒロイン、さらには脇役に至るまで、どこか達観していて、その歳らしからぬ、大人びた印象を受ける。

けれども、その内には、誰もが持つような、青春期のうねりともいえよう、純粋な熱情が確かに存在していて、部活動という形で現れている。(もちろん、その手段たる芸術は、決して平凡ではないが)

彼らが取り扱う芸術は、平凡たる我々には理解が難しいけれど、創作のもっとも根底にあるべき「楽しさ」という息吹は、確かに彼らからも感じられるのである。

共通は長い

サクラノ詩 / 枕

この作品に限ったことではないが、長い作品の共通パートは得てして長い。

ツイッターを見ていると、「共通は退屈だった」という人も割といるので、忍耐力は必要かもしれない。(共通がつまらないというより、個別の爆発力が異次元なだけだと思うが)

和解
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共通は、明石の漢気が見られて、結構好きです。

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壮大な伏線

サクラノ詩 / 枕

この作品は、単体でも一応きれいな終わり方をしているものの、続編(大人編)として、サクラノ刻が発売されている。

サクラノ刻は、詩の中で膨大に敷かれた風呂敷を回収していく物語であり、そういう意味ではこの作品全体が刻に向けた壮大な伏線と言ってもいいのかもしれない。

主人公の快活とした性格も相まって、予想のつかない展開と伏線は見事。

扱う話は芸術という、動きの少ないもののように思えるが、そこには確かに生きた人物がいて、動きのある、ワクワクさせてくれるストーリーが待っているのである。

和解
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終始圧倒されるシナリオだった。

衒学的という批判について

サクラノ詩 / 枕

この作品は、文学、美術、そして哲学を取り扱う。

そのテーマの高尚さも相まって、しばしば「衒学的1という批判を受ける作品でもある。

もちろん、作中での芸術論の云々は、本当に必要だったかといえば疑問が残る箇所はあるし、私自身、なんとなく「文学とか哲学の話ってかっこいい!」という理由でこの作品を推しているという側面がある。

しかし、芸術論の中に見られる哲学から受け取ったものは確かにあったし、そういう衒学的趣味こそがこの作品の魅力だと感じる。

そもそも、文学に貴賤などなく、衒学的であったとして、その作品を信奉することの何がいけないのだろうか。

むしろ、衒学的という批判(あるいは衒学的という一般的でない言葉を敢えて用いて批判する行為)こそが、甚だ衒学的で、もっとも忌むべき加害性に塗れた行為ではなかろうか。

和解
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ペダンティック(衒学的の意。言いたいだけ)なものや、一般に「教養」とされるものを著しく冷笑する風潮が昨今ありますからね。多少は仕方ない。

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芸術的厨二病になれる作品

サクラノ詩 / 枕 (このシーンめちゃくちゃ好き。私も一節読んで本放り投げたい。)

衒学的という批判をときに受けるほど、この作品は芸術作品からの引用が多い。

物語冒頭の「春と修羅」はみんな大好きであろうし、「春日狂想」に代表されるような中原中也のニヒルな思想というのは、私のような「若者」には刺さるものである。

そして、モネやゴッホなんかは、絵が出てくるだけで嬉しいし、教養中毒の私にはどストライクな代物である。(ゴッホと宮沢賢治のZYPRESSENなんかは特にね!)

かつて異世界モノや戦闘モノを見て、俺TUEEE系主人公に憧れた厨二病の私は、今や本と筆を手に取り、言葉と旋律を奏でる、謂わば「芸術的厨二病」然としている。

和解
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小難しい本を云々して楽しむ自認草薙直哉な私なのだった…

男キャラがあまりにもかっこいい

サクラノ詩 / 枕 (このシーンの健一郎めちゃくちゃかっこいいよな~。詩の泣きシーンといったらこれかも。)

なにより、主人公の草薙直哉は、高身長で、顔整いで、天才で、女性からめちゃくちゃモテている。

直哉の生き様は、強くあるけれども、どこか人間的な不完全さも持ち合わせていて、厚みのある人間である。

己の筆を、限界まで使って絵で、美で人を救おうとする、半ば自己犠牲的な直哉の姿は、嫉妬よりむしろ、多くの読者の共感と応援を受けることだろう。

主人公の友人である圭や明石、そして父である草薙健一郎といった男キャラも、クセが強いとはいえ、芯がしっかりとあり、非常に魅力的である。

和解
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ケロQ枕作品は、ギャルゲの中では女性ファンが多い気がする。こういう男キャラのかっこよさも、その一因なのかもしれない。

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個別が強い。

サクラノ詩 / 枕

メインヒロインが4人いるが、どの√も強い

直哉の過去にも大きく関わるシナリオであり、各ヒロインとトゥルー√間で、かなり密な関わりがあるのでよく考えられているなと思う。

あと、絵がきれいな上に、声優さんの演技が上手いので、ふつうに使える。(何がとは言わないが)

共通の長さを差し置けば、文章の読みやすさとシナリオのスピード感、そしてキャラクターの可愛さ的に、すばひびなんかよりはよっぽど初心者向けのノベルゲーだと思う。

和解
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個人的には氷川√がすごく好き。哲学的な感じがして。

天才が凡人へと還る物語

サクラノ詩 / 枕 (このシーンほんとに好き。藍だけは、いつまでも見守っててくれるんだよ…)

主人公の直哉は天才である。それも1000年に一人の天才である。

しかし、この作品は直哉の天才性にはフォーカスしていない

彼の天才的なエピソードの多くは、過去編に集約されており、むしろ、スポットライトが当たっているのは、直哉の人間的な不完全さや弱さ、あるいは自己犠牲的な精神であり、年相応の少年性である。

ゆえに、この作品は、天才が華々しく活躍する、そんな物語ではない。

むしろ、天才だった直哉が、凡人としての幸福を求め、日常の中へと還っていく物語である。

和解
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トゥルーエンドの終わり方が大好き。藍センセのバブミがすごい。

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価値観を大きく変えた、魂の作品。

サクラノ詩 / 枕

大好きな作品はたくさんあるけれど、価値観を大きく揺るがした作品と言われれば、私はまっさきにサクラノ詩と刻を挙げる。

素晴らしき日々が、非日常の演出によって「幸福の正体」というものを哲学的に見出そうとしていたのに対し、この作品は、あくまで日常の中で、「人とともにある幸福」というものを見出そうとしている。

すかぢ氏の幸福観は、すばひびにも、サク詩・刻にも等しく反映されているけれど、その魅せ方は大いに違う

直哉と稟の、強い神と弱い神の芸術論談義、そして健一郎の語る、美酒的な、「刹那的幸福論」2は、すばひび以上に、実感を持って感じられた。

素晴らしき日々と一緒に、是非楽しんでほしい。

和解
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幸福論の他にも、「天才とは一体何なのか」というお話も詩・刻の魅力。これについては刻のレビューで深堀ろうと思う。

プレイ前・後に是非やってほしいこと

既存OPと新OPの視聴

10thの方のオープニング。私がプレイ済みだからかもしれないが、ネタバレになりうるところがあったので、一応換気。ファン向けという印象。一度プレイしてから見ると、感動もひとしお。
10thのPV。プレイしてから見ると、あの感動をまた再生しているようで、泣けてくる。

冒頭でも述べたが、10th版の新OPは是非プレイ後に視聴して、プレイ前は既存OPのみを見てほしい。

そして、プレイした暁には、新OPを視聴するとともに、既存OPについてももう一度視聴してほしい。

プレイ前はうまく結びつかなかった歌詞という言葉とメロディーという旋律、そして映像が、巧みに結びついてくるだろう。

続編である「サクラノ刻」のプレイ

前述したように、サクラノ詩は、伏線の物語であり、その回収の殆どはサクラノ刻の中で行われる。

詩の終わり方は、それはそれできれいだが、モヤモヤが残るというのもまた事実。

天才から凡人へと還った直哉のその後の物語、あるいは「凡人から天才へと”奔る”物語」が続編、サクラノ刻とも言えよう。

サクラノ詩をもしプレイされるのであれば、絶対に刻もプレイしてほしい。(というか、プレイせずにはいられないと思う)

和解
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遠くない未来に、サクラノ刻のレビューも書こうと思う。

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思想を共有する「素晴らしき日々」のプレイ

すでにレビュー記事を書いているので、そちらも参考にしてほしい。

詩・刻と貫通するテーマがあるうえ、魅せ方が違うため楽しめると思う。

とくに、素晴らしき日々をサク詩プレイ前にやっておくと、詩プレイ時に「これすばひびでやったところだ!!!」となるので、是非おすすめする。

幸福な王子 と ドリアン・グレイの肖像

サクラノ詩 / 枕

作中で何度も登場する、「幸福な王子」という作品。言わずとしれた、オスカー・ワイルドの代表作である。

幸福な王子的なお話は、刻のほうでより詳細に言及されるが、刻をより楽しむという意味でも、ぜひ読んでほしい。(かなり短いお話なので、すぐ読めると思う。)

それに加えて、作中での言及はないが、同じくオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」についてもぜひ読んでほしい。

詩は、刻と比べても芸術論的な話が多く、とくにオスカー・ワイルドに代表される「唯美主義」思想がかなり反映されているから、ワイルドの芸術観が大いに反映された、ドリアン・グレイの肖像も是非読んでほしい。

和解
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幸福な王子も、ドリアン・グレイの肖像も、岩波書店版を購入されることをおすすめします。(おそらく、ヒロインの一人である御桜稟が持っているのは岩波版)

総評

サクラノ詩 / 枕 (長山香奈ほんとに好き。詩だと意地悪キャラだけど、刻までやったら絶対好きになるはず。)

直哉は作中で、櫻の芸術家、あるいは因果交流的電燈の芸術家と称される。

これが何を意味しているのか、各ヒロイン√でのヒロインとの向き合いをみて、感じてほしい。

そして、かつて天才と称された彼が、どこへ着地するのか、ぜひ見届けてほしい。

皆様のノベルゲーライフの上に、善き舞が、そしてその下に、善き歩みがあらんことを切に願う。

  1. ペダンティックともいう。学識を必要以上にひけらかすことを意味し、難解な表現を用いて学識を自慢する行為がこれに当たる。 ↩︎
  2. 幸福という名の美酒は、幸福なときこそ開けられない。幸福なんてものは、自分が幸福であるときこそ、気付けない。(らしい。) ↩︎
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