どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。
喜:★☆☆☆☆
怒:★☆☆☆☆
哀:★★★★★
楽:★☆☆☆☆
先日アニメ同好会で新海誠作「秒速5センチメートル」を視聴したのでその感想をば。
一応見るのは二回目で、私自身大好きな作品ですが、かなり見るのに勇気がいる作品でしたね…..
一回目は幼少期に視聴しましたが、ある程度精神年齢の上がった大学生になって見ると、また新たな発見が数々ありました。
アニメの武器を最大限に生かした傑作
です。
作品概要
2007年に新海誠先生が脚本・監督を務められて制作されたアニメーション映画です。
全3話からなる短編映画で、1時間6分となっています。
同一の主人公の、異なる時代(中学生、高校生、社会人)を話ごとに描いており、各ヒロインとの交流を美しい映像と文体で描く、感動作です。
※第二話だけヒロインが違います。
公式から出された予告動画に、この作品の切なさと感動が凝縮されています。
注目ポイント
ビターエンドでしか得られない栄養
「君の名は」で有名となった新海誠作品ですが、私は正直君の名はより秒速5センチメートルのほうが好きです。
「君の名は」以前の新海作品は、ハッピーエンドというよりはビターエンドよりであったように思います。
もちろんハッピーエンドよりのほうが大衆受けするのは確かですし、「君の名は」についても私自身高い評価をしています。
ただ、私個人としては、安直なハッピーエンドよりは、「ハッピーエンドだったらよかったのになぁ」と悶々とできる作品が大好物なんです。
ビターエンドでしか得られない栄養があるというか、「ハッピーエンドだった世界線」というのを個人的に夢想するのが、一つの楽しみなわけです。
そういう、私のようなビターエンド厨、あるいはドM(私は断じて違います。)の方は、「秒速5センチメートル」を見ることで、他では得られない栄養を得られると思います。
全3話の無理のない構成
先述したように、この作品は中学生編の「桜花抄」、高校生編の「コスモナウト」、社会人編の「秒速5センチメートル」からなります。
少年期から青年期の長い期間を、1時間6分という映画としては比較的短い時間の中に集約していますが、無理をまったく感じませんでした。
これは、後述するアニメの特性を最大限に生かした構成だったからだと思います。
アニメにおいては、映像と音声がありますが、それをうまく使い分け、映像では季節や風景の変化によって「時間の進み」を、音声では、主人公とヒロインの心情描写を主軸にして「心の変遷」を描いていたように思います。(連絡手段が手紙から携帯に変っていくのがちょっとエモかった)
それゆえ、映像と音声の組み合わせによって、アニメの1秒1秒をより濃く描き、1時間6分という尺の中に収めることに成功したのでしょう。
脚本だけでなく、映画監督としての新海先生の腕前が伺えます。
何様やねん
ごめん
「心の距離」の妙
恋愛を主軸に置いた作品では、しばしば「すれ違い」というものが描かれます。
この作品においてもすれ違いを描いていますが、それは他作品とは一風変わったものです。
俯瞰的立場から主人公とヒロインの心情を追える視聴者からしてみれば「心が通じ合っている」状態でも、互いの立場や状況、心情であればなおさら気づけない当人の立場からしてみれば「すれ違い」になってしまう状況というのは現実世界でも多いことだと思います。
この作品では、その微妙な心の距離感をとても巧く表現しているように感じました。
「どちらかが、もう少しだけ勇気があれば、相手を信じられていたら、手紙を渡せていたら…..」とは思わずにはいられない作品でした。
この視聴者と当事者でことなる「心の距離」の描き方の妙は、「君の名は」でも生かされているように感じます。
主人公とヒロインの対比
主人公は思いを確かめ合った中学生のあの日から止まったままでしたが、ヒロインはあの日から少しづつ、けれど着実に前に進んでいったように思います。
過去に囚われてしまう主人公と未来へ進むヒロイン、この決定的な違いが、ラストの決別に起因していたのかなという風に思います。
そう思うと、最後の最後で主人公は前を向けたと思うので、そこはまだ報われたのかなと。
対比について、かなり考えさせられた作品です。
過去を夢見る少年と、現実を生きる少女での、「過去の思い出」に対する認識の差も、大きかったんじゃないかなぁ…
リアリティがすごい
この作品を観て思ったこととして、「創作に思えない」ということです。
現実として、「小学校のころ好きだった人と結婚できる確率」というのは非常に低いと思います。
それゆえ、この作品での二人の決別を他人事のようには思えない人もいることでしょう。
それと同時に、キャラデザにおいて、キャラクターを際立たせるのではなく、あくまで風景と同化させ、個性を持たせなかった点も挙げられます。
秒速5センチメートルの登場人物は、誰も彼も現実世界にいてもおかしくない、等身大の人物だったように感じます。
シナリオとキャラデザという2つの観点から、秒速5センチメートルは、「特別な誰か」の物語ではなく、現実世界にもいそうな、「ありふれた誰か」の物語になっているように思いました。
最後に
タラレバを考えずにはいられない作品でした。
同様に、ネタバレを避けずには語れない作品だとも思いました。
とはいえ、ネタバレされたとしても、十分に楽しめる作品であることは確かですし、見る時の年齢や環境によって、とらえ方が変わる、面白い作品であるようにも思いました。
過去を夢見る少年と現実を生きる少女とで、「過去の思い出」に対する認識が違ったように、夢見る若者と現実を見る大人とでは、作品への考え方が変わってくるんじゃないかなあ…
新海誠作品の中で、私の一番好きな作品といっても過言ではないので、是非見て頂きたい作品です。
思い出を胸に、今を生きよう。
それでは!
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